ソチへ、トレーニング中の東海将彦選手
パラリンピック・アルペンスキーの東海将彦(エイベックス・エンタテインメント所属)に会うため、10月18日(木)板橋のトレーニングスタジオを訪ねた。アメリカ留学時代から20年来、東海をみてきたパーソナル・トレーナー輪島節雄さんのオフィスにて。

これまでの経緯 「ケガとの闘い」

東海選手は、2006年トリノでパラリンピックに初出場。ジャイアントスラロームで銀メダルを獲得、スラローム4位、スーパーG5位と好調なデビューを果たした。
その後、バンクーバーを控えた2009年2月にカナダ・キンバリー(ノース・アメリカン・カップ)でのダウンヒル公式トレーニングで左足を骨折、シーズン以降、ケガとの戦いが今も続いている。

バンクーバーへ向かう2010年3月。東海のケガはようやく回復がみられ、代表チームの練習に復帰した。その矢先、バンクーバー直前のジャパンパラリンピック(白馬)で再度負傷し、傷を深めてしまった。
代表に選ばれていたバンクーバーパラリンピックは、治療の状況により結局現地へ渡航することができなかった。スキー競技ではケガはつきものなのだから心配ないだろうという見解だったが、この時、東海は骨折していたのだ。

「バンクーバー前のレースは、荒天や雪の状態でとても危険でしたが、パラリンピックに行くためには、出なければならなかった。結果、インスペクションで転倒し、さらにケガを悪化させてしまったんです。治療中でも現地へ来るよう言われましたが、それは無理でした。」

現在のケガの状況は・・・?

「だんだんと良くなっていると思うが、つねにケガをかばう形での生活が長くなっているため、滑りに影響が出ないよう注意して競技しています。ケガの部分の痛みはだんだんとれてきていますが、痛みをカバーしながら滑ることによる、左右のアンバランスさを修正する必要があります。まっすぐに滑ることができるよう、ジムで自転車に乗ったりもしています。 あと、全身の柔軟性と筋力アップ、敏捷性の向上などで体幹を鍛えるトレーニングを工夫しています。」
東海の場合、ケガは完治するということよりも、むしろケガの回復を図りながら、競技で勝つことをめざしていくことがダブルの課題となっているよう。


以前も道具の話をされていましたが、いまは何か重視している課題がありますか?

スキーブーツと情報の壁

「スキーブーツに関して、国産のレグザム社の協力で、自分のケガの状態を踏まえた濃やかなサポートをしていただいていますが、ブーツの高さに関しては競技規定の確認をする必要があり、どのようにできるか課題になっています。
ブーツの高さはFIS(国際スキー連盟)のルールで43ミリまでとなっているのですが、高さや角度に関しては、痛みを抑え、バランスの良いポジションを探るための重要な部分になります。そこでもし、障害クラスに準じたルールがあれば確認したいと思います。しかし、ルールについては連盟を通じてすることなので、選手が気軽にメールや電話でというわけにいかないです。」

実際の海外のレースで規定より長いのでは?というブーツを見かけることがあるという。しかしそれがルール上可能なのか規定違反なのかは、わからない。決まっていないのかもしれないが、問い合わせたり、交渉したりができているわけではない。

スキー競技では、競技中の多少の捻挫やケガはブーツでカバーできてしまうほどブーツの存在は大きい。FISは大きな大会の種目ごとに、スキーブーツの靴底の高さを見直している。
東海の怪我した足首に対応したブーツの改良は、競技の戦略上ももちろんのことだが、滑れる状態をつくるという安全面からも欠かせない。

少し話しはずれるが、スキーに限らず、夏・冬のパラリンピックでは、年々競技技術の向上とともに、競技用義足や車椅子の性能もあがり、用具に関係するルールや解釈に変化が生じることがある。その情報の中心は、やはり欧米の競技連盟や開催国の委員からであるため、日本チームにとって「言葉の壁」「情報の壁」をつくらないことが、戦略上の課題となっている。
先月閉幕した、ロンドンパラリンピックでも、日本の多くのアスリートや何人かのスタッフがその課題を明確に感じているようだった。

パラリンピック・アルペンスキーは、FISが各種目や用具のルールを定めているほかに、IPCアルペンスキーによる障害のクラス分けと3カテゴリー(視覚・立位・座位)の障害種別、程度別にハンディキャップ係数が定められている。係数については必要に応じて見直しが行なわれているようだから、スキーブーツに関してもFISのルールでは補えない部分に関する交渉の余地があるのではないだろうか?

アメリカでの合宿と台所事情

世界を目指すアルペンスキーヤーたちにとって、2012-2013年のシーズンは勝負の年。2014年のソチ(ロシア)の本番まであと1シーズンと少しだからだ。パラリンピック選手も同様11月からは欧米各地でIPC公認大会が始まり、そしてシーズン後半の2013年3月には、いよいよソチでのプレ大会が7日から開催される。

世界一と言われる日本のチェアスキーチームで、狩野亮(マルハン)や、東海を慕う立位の三澤拓(キッセイ薬品工業)、小池岳太(セントラルスポーツ)らも、そろそろオーストリアの合宿地に到着している頃だろう。
東海も、いちど9月に帰国し、10月末にはシーズンの始まりを迎えるため渡米する。今シーズンは世界ランキング16〜22位からのスタート。トレーニングは留学時代からのアメリカ。
代表チームと離れてアメリカで練習する理由は、ケガのための個別スケジュールが必要なことはもちろんだが、台所事情や、東海自身もIPCポイントを効率よく獲得していくことのできる競技環境が不可欠だ。ベテランの判断は幸いコーチからも信頼を得られているようだ。

「アメリカのスキー場は人工降雪機などでほぼ一年中雪上トレーニングができます。旅行代金もヨーロッパよりは安くてすみますし、アメリカでの練習で成果が得られることは後輩たちのためにも大事なことだと思っています。」

現在、パラリンピック・アルペンチームの選手誰もが自己負担で遠征費を捻出しなければならない。選手たちは所属する会社から給料や活動費の形で収入を得て活動している。東海も、バンクーバー後のシーズンからエイベックスに所属変えし、給料をつぎこんでリハビリとトレーニングをしている。
「エイベックスでは万全の体制でバックアップしてくれている。スキーブーツもスキー板も、メーカーの全面協力によりテストを繰り返し、迅速に、そして安全に競技ができるよう調整できる体制となっています。」と東海は言う。ケガを重ながら技術を磨き続ける東海の挑戦は、会社や協力メーカーによって大きく支えられている。だからこそ、費用対効果のある年間のスケジュールを組むことが東海には課せられていることだろう。

ちなみに今年8月に発表されたパラリンピックアスリートの実態調査で、自費による年間の平均強化費は144万円だが、アルペンスキーの場合、道具をそろえるだけで100万円が平均。年半分は海外でトレーニングする東海の場合、400から500万円くらいにはなる。他の競技とは比べ物にならない。


ソチへの意気込みは?

日本チームで戦うために

「今回は、ジュニアの選手が、アメリカに来る予定なんです」と東海は教えてくれた。
まだまだ少ないが、アルペンチームにも数名の日本代表をめざす若い選手が、トップチームとともに練習を始めている。本陣の合宿へも同行し、途中からコロラドへ渡り東海とともに練習、大会に出場するようだ。

「アルペンスキーは3カテゴリー制採用により、パラリンピック競技の中では参加人数も多く、メダルを獲得するのは容易なことではありません。でも、まだまだ自分には可能性があるものと信じ、競技に取り組んでいきます。
競技環境で日本は世界に遅れをとっていると痛感します。それに相反するように、海外の強化はものすごい速度で進んでいるようにも感じますが、選手個々が危機感をもって、もう一度ここで仕切りなおして、集中していけば、ソチでも日本チームは輝けるはずです。」

いよいよ、ソチへむけての最終段階が始まろうとしている。アメリカ、ヨーロッパ、長野と日本チームの視野は世界へ向けられている。その一極にいる東海は、一等星の輝きで変わらないエネルギーを放っていた。


10月18日(木)板橋:スポーツトレーナーズグッディにて

★この記事は「パラフォト」に掲載したものとほぼ同じものです。トレーニングの様子の写真はパラフォトのサイトからどうぞ。※現在パラフォトのサイトはロンドン仕様になっていますので、この記事は右横のリンク[Paraphoto Home Page]からご覧ください。
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by sasanoel | 2012-10-21 16:42 | スポーツの前後左右
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