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防護服を着たおくりびと

1954年3月1日、焼津港の漁船・第五福竜丸がビキニ環礁で操業中にアメリカの水爆実験の犠牲となった「第五福竜丸」。この水爆実験で、放射性降下物を浴びた漁船は数百隻にのぼるとみられ、被爆者は2万人を越えるとみられている。漁にも大きな打撃を与えた。
この事件をモチーフに、アート表現を模索するイベント「銀板写真 シルクスクリーン 死の灰 トーク パフォーマンス」が4月22日より5月18日まで、世田谷区三軒茶屋で行なわれている。粟津デザイン室、粟津ケン氏の主催。

5月6日(土)、19時半開演とあるが、時間をすぎても始まらない上、いつ終わるのかも書いていない。何かあるな・・、と思いながら、アマゾンで届いたばかりの絵本、ベンシャーンの「ここが家だ」を携えて、地下の会場で席についた。

その夜、華道家の上野雄次さんは、奇抜なパフォーマンス・アートで、死の灰、火、放射能の恐怖と狂気を表現した。
タイトルは、『EXPOSE』
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防護服を着たおくりびと(上野さん)。
いまはオブジェと化した死の灰をビニールで封印して、第五福竜丸で被爆し、亡くなった久保山愛吉さんをはじめとする、過去の犠牲者への鎮魂に始まる。棺に深紅のバラが捧げられる。たくさんのバラは、多くの悲しみ。
しかしその恐怖は終わらない。
第五福竜丸の顛末を報じる映画の音声から、写真家・新井卓さんの録音した3.11の地震の放送に変わり、時間が経過する。
核の恐怖が今、この日本から、再び世界中の被災者を巻き込もうとしている。その事への怒りと悲しみと、恥。
核を作るのも否定するのも、人間。どうしていいかわからない怒り。人間が、守り育ててきた自然や故郷への想いが、美しい気持ちで捧げられた血の色のバラの花や、ビキニ環礁付近にあり、画家ベンシャーンもモチーフにした椰子を醜いものへと自ら風化させる日本人。
唯一の被爆国、そして3.11で多くの被災者を出し続けている日本で、恥ずべきなのは、いまなお私利私欲のために理屈をつけて核を肯定しつづける人々がいることだ。
醜くなってしまった自然や、腐敗してしまっているだろう遺体を捜索する自衛官や、最後の別れを願う被災者と家族たちがいるというのに、あなたがた(=わたしたち)は、恥を知れ、と、聞こえた。

正直、怖くて、途中で帰ろうかと思った。
狭く暗い地下室で美しいバラにシンナーをふき、ガスバーナーであぶり、椰子をぐるぐる巻きにしてキノコ雲を造った。ガスバーナーの火はいつまでも消されず、ただ、恐怖のためだけにそこにあるような気がした。
一般的なセキュリティ感覚を持ち合わせた人なら、退場しても責められない状況。
原発で命を掛け働かなくてはいけないだろうか?。その怖さと重なる。命がけで、アート(人の造る)パフォーマンスを見る必要はないのではないか?それが真面目なアートであろうと、観る側が選択できるはずである。それでも、そこに居るのか・・という、居心地のわるさ、「大丈夫だろう」と誰も席を立つものがいない。アートがそこまでするはずがないという、根拠のない理由にすがる。意図的なものだと知りつつ、どうすることもできない恐怖。
第五福竜丸で、広島や長崎で、スリーマール島で・・・美しいキノコ雲、重力によりあたりまえに降りてくる「死の灰」を、いつまで見続ければいいのか。そしていま、見えない死の灰が降り注いでいるのかもしれないのだ。
もちろん、そこは上野さんという想像主が造った、自由で暴力的な想像の空間だった。
上野さんが、キノコ雲になった椰子の木の幹に、(醜くただれてしまった)バラをかかえて抱きついた時の悲しい表情を見るまでは。

これは、一方的な解釈。ほんとうはちがうのかもしれないけど、そんなふうに思われた。

最後に、意見交換があり、写真家・荒井さんが「ひどい暴力と感じた」と、目をそらそうとしたことに、「その意見は芸術家として無責任だ」と、会場から避難があった。「暴力でなくて、鎮魂でしょう」という声もあがった。荒井さんは、この震災後に現地で撮影した経験から、自分がプロであるということに焦り(?)のようなものを感じているようだった。
華道家の上野さんは作品については何も言わなかった。パフォーマンスで疲れていただけではないとおもう、ここで解釈しないことで、作品が終わったと安心した。
トークセッションの短い時間のなかで、クリエーターもいろいろと悩んでいるように見えた。
主催者の粟津ケンさんが、「今日は展示を見る時間が少なかったけど、期間中は展示や、あっちのソファでもヒロシマ・ナガサキの写真集が見れるし、僕らもいるので、また来てください!」と締めくくった。

3.11の被災者はここにいない。でも、いたのかもと思う。自分の疑問を飲み込んで、22時ごろ、会場をあとにし、横浜へ帰った。

狭い地下の一室には、第五福竜丸から採取された死の灰が展示され、奥のバーカウンターに近いソファでは写真家・東松照明のヒロシマ、ナガサキの写真集、画家・ベンシャーンの絵本などが閲覧できる。
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左から、主催者・粟津さん、華道家・上野さん、写真家・荒井さん、デザイナー・上浦さん
by sasanoel | 2011-05-07 13:35 | 東京