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ダライ・ラマ14世の記者会見に参加して

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チベット仏教の最高指導者、ノーベル平和賞受賞者でもあるダライ・ラマ14世(76歳)が来日し、高野山大学での講演や科学者との対談のあと、東日本大震災の被災地を訪れた。10月末からの約10日間の日程だった。
中国政府との長い戦いのなかで、今年に入ってからもチベットでは11人の僧侶が自殺(法王いわく「文化的虐殺」)を遂げている。ダライ・ラマは、その苦しみを十分すぎるほど背負いながら、東北の被災地を訪れ、日本の人々に会いにきてくれた。
10月7日、その訪日の最後の日、自由報道協会の記者会見に応じた。私も、この会見に参加することができたことに感謝している。

少し遅くなったけれども、私がこの記者会見で見聞きしたこと、感じたことをお知らせしたい。

その前に、この記者会見でダライ・ラマ法王が述べたことについては、記者の視点で伝えようとする記事がいくつか掲載された。
以下に、紹介する。

ダライ・ラマと日本メディアの「保守性」(ニューズウィーク日本版)
http://www.newsweekjapan.jp/newsroom/2011/11/post-241.php

ダライ・ラマ14世が私たちに伝えたい2つのこと(モデルプレス)
http://mdpr.jp/021157761

脱原発だと「貧富の差広がる」 ダライ・ラマが記者会見で述べる(Jcastニュース)
http://www.j-cast.com/s/2011/11/07112352.html

記者会見の会場からは、通信メディアが中継した。
ダライ・ラマ「何かを決めるとき一面だけを見てはダメ。原子力についても同じ」 会見全文 (ニコニコニュース)
http://news.nicovideo.jp/watch/nw142265

しかし、残念なことにダライ・ラマの訪日に関してもっとも多く取り上げられた話題は、法王の被災地訪問や記者会見ではなく、法王と大臣らが都内ホテルで会談したことを問題視するものだった。中国と対立するチベットの指導者と政治家が会う事は、中国との関係を悪化させるということだ。
中国との関係を悪化させたくない国は、日本だけではない。10月には、南アフリカのツツ司教が、ノーベル平和賞者どうしの交流でダライ・ラマを南アフリカへ招待したところ、南ア政府はビザを発行しなかった。この交流は後日スカイプでの会談が実現されたことが、You Tubeで公開されており、そんなことでへこたれない宗教指導者たちの力強さを感じた。

Dalai Lama & Desmond Tutu hang out on Google+ (You Tube)
http://www.youtube.com/watch?v=1_HqVFEzY2U

しかし、11月8日、仏教協会の招きでモンゴルを訪れたことに対して、モンゴル政府に抗議を中国外務省が表明するなど、中国の法王に対する圧力は大きい。

中国 ダライ・ラマのモンゴル訪問に反対(The Voice of Russia)
http://japanese.ruvr.ru/2011/11/09/60088783.html



記者会見前に考えていたこと
自由報道協会の会見会場へいく電車で、iPadで「ダライ・ラマ」を検索した。池上彰さんの「ダライ・ラマに人生相談、何を相談しますか?」というラジオ番組が紹介されていた。お茶目で、魅力的な人柄、そして、頼りになる真のリーダー。そんな感じを抱いた。宗教になじみの薄い日本人として、興味がわいたのは、宗教者としての考え方、基本的なものごとへの接し方。被災地へ行って、どのように感じたか、被災者と生きるということはどういうことか。そんなことを、聞けたらと会場へ向かった。

東日本大震災の被災地へは、天皇陛下も来るし、SMAPも来る。生きていたら、マザー・テレサもマイケル・ジャクソンも来たかもしれない。そこには、わずかな時間だけれども、法王と地域の人々の心からの、または素の交流の時間があると思う。しかし、記者会見というこわばった場では、記者やファインダーから覗くカメラマンたちは、人間的なダライ・ラマの素の様子に触れることがなく終わるだろう。私たちは、法王の素顔や人柄を知る機会はほとんどない。ましてや彼の国、チベットのことも。それでも、うけとめ、発信しようという人々が集まるのだから、伝えられることを伝えなくてはと思った。


チベット市民にとどけ!
法王が日本のジャーナリストに熱心に呼びかけたのは、ひとつには、日本人の声を通じて、チベットの市民たちに想いを伝えたかったからではないだろうか。
日本にいる間も、被災地を回りながらも、法王はいつもチベットの人々とともにあると。

まず代表質問に立った記者は、法王に福島で餓死する動物たちの写真をつきつけた。法王は目をみはっていた。「福島が起きてしまい、日本人はどうすべきか?」誰もが、この機会に、宗教家に聞きたかったことだろう。
しかし、「物事は、局面だけをみてはいけない。全体的に観なければならない」と、原発だけを否定しない意見を語った。つねに安心を求める日本人に、「安心できることなんて、ひとつもないよ」と言っているように聞こえた。

また、チベットを観てご覧なさい、と。自然豊かだと思っていたチベット高原では、現在、中国政府による深刻な環境破壊があることを、私ははじめて知った。理にかなった提案をしても賛同しない中国政府による弾圧が、チベットを汚染し、僧侶たちを自殺「文化的虐殺」に追い込んでいる。

「原発はやめるべきだ」といって欲しかったが、単純にそうはならなかった。法王にとって原発は、中国に抗議しながらチベット人がよりよく生きていくために必要なのだ。少なくとも今は。他のエネルギー源にも少なくない環境負荷があるし、原発が必ずしも安全ではないことは承知している。
かつては広島・長崎を、そしていま、福島を訪問した宗教家がそれでも原発容認を口にするのは、チベットが核の平和利用に希望をもっているためだ。実際の原発事故を起こし、多くの人が亡くなっても隠蔽する、日本の政治や電力会社の問題とは状況が違いすぎて、すぐに比較できそうにない。

「日本人が脱原発を選ぶなら、構わない。だが、先進国の論理にチベットを巻き込まないで欲しい」ということだ。
また、「福島の事故は、日本の問題だ」と、法王は言った。チェルノブイリをウクライナ共和国が解決しなければならないように、環境汚染の責任は誰かが負わなくてはならない。チベット高原の汚染問題も同じだ。それぞれの国で、国民はすべきことをしなければならない。福島原発事故の責任は日本にあるのだ。わかりやすかった。                                                                                                                                        

政治的な姿勢くずせない宗教家、悩むことで豊かになる人々
一方で、核や汚染物質を兵器として使うアメリカ政府は、アジアや南太平洋の海や自然破壊を行っただけでなく、自分の国の人々にも大きな苦しみを負わせ、その責任をとろうとしない。それを思うと、中国に対するチベットの存在は、内側から鳴らされる警鐘のような、とても大切なものだ。

日本には、「廃炉にする」という目標がある。しかし、膨大な時間をかけて、環境を維持していくための努力の覚悟と共有が必要だ。地震のないフィンランドで、10万年後を想定した廃棄物処理施設を建設している現実は、他の星を題材にしたSF映画のシナリオではない。テレビも、ツイッターも、インターネットが当たり前の時代に、戦後の大本営発表のように見せかけの仕事をしても誰も納得などしない。どうすればいいのか、それはもう国会だけで進めていいことではない。

ダライ・ラマに会って、チベットには、ダライ・ラマを中心とする意識の共有があるのかもしれないと思った。チベットへ行ってみたくなった。


記者会見について
ここ自由報道協会では、「報道目的」の厳しいマナーが要求されると思いつつも、正直いってやはり、エラいお坊さんに何か救いを求めてしまう気持ちがなかったか?と言えば、うそになる。実際、会見に参加して、それは私だけじゃなかったと思った。
会見が終わったとき、多くの参加者がダライ・ラマに押し寄せ、握手をもとめた。「非常識だろう!」と、怒鳴る声が一度あったが、そんな声で怒鳴らないで欲しかった。長い滞在の疲れもある法王を引き止めてしまうことになり、記者としてそれでいいの?ということだが、記者といえどダライ・ラマに感謝を伝えたいと思うのは、とてもよくわかる。私も握手をしたかった。

宗教のない国で、私たちの多くが、やはり救世主を求めてしまうのかもしれない。
ダライ・ラマは、宗教家として、改革のリーダーとして特別な存在であることに間違いないが、その身体も心も、たくさんの傷を負った、生身のオッチャンなのだと思った(汗)。

自由報道協会の呼びかけで記者会見が行われたことは、よかったと思う。
上杉隆さん、どうもありがとうございました。


ダライ・ラマ記者会見の写真


※追伸11月16日 ダライ・ラマ方法日本代表部事務所より
今回の記者会見での法王の原発に関する発言の内容に誤解があるとのことで、同事務所ホームページに以下、発言内容が掲載されている。
「ダライ・ラマ法王による原子力エネルギーに関するご発言について」
http://www.tibethouse.jp/news_release/2011/111115_nuclear.html
by sasanoel | 2011-11-11 16:23 | 記者会見から